自分を取り巻く人影は四人。
対する自分はなにも持っていない丸腰。
いくら魔法使いになるための修行の一環で戦闘になったときのために体術を習っていたからといって、少々真っ向から対峙するにはきつい人数だ。
「お譲ちゃん……俺らに会ったのが運の尽きだったなぁ? とりあえず金目のものはすべて俺らに渡してもらってから、みんなで楽しいことをしようかぁ……」
ゲヘヘ、と下品に笑う体格のいい一人の男が一歩近づき、ほかの三人もそれに合わせて足を踏み出し取り巻きの輪を縮める。
――嫌だ、気持ち悪い。
捕まりたくない。
触られたくない!
リリスは唇をかみ締めた。
あぁ、本当になんて運の悪い、こんなことになるなら何か武器でも買っておけばよかった――そんなことを嘆きたくなるほど、今の状態は絶体絶命だった。
男たちに捕まれば見ぐるみを剥がされたあとに男たちの手慰み者になるのは目に見えていた。
それでも抵抗しないままに捕まるよりは一か八か血路を開くほうがまだましかもしれない。
そう覚悟して、四人のうち一番ひ弱そうなひょろっこい男に目をつける。
あの男なら多少攻撃を食らわせればどうにかなりそうだ。
男たちがじりじりと迫りくる中、リリスが動いたのは一番体格のいい男の手が伸びてきたときだった。
身を低くして狙いをつけた男に突っ込み、みぞおちにパンチを食らわせる。
不意打ちにひるむ男が一瞬遅れで伸ばした手首をつかみ、力の反動を利用して投げ飛ばす。
とっさに受身を取れなかった男は無様に起き上がれないまま地面に転がっていた。
これで一人終わり。
残された男たちは何が起こったのかすぐには理解できていなかったが、地面に転がされた仲間を見るなり三人いっぺんにリリスへと飛び掛ってきた。
さすがにこれはリリスもかわしきれず、二人の攻撃をよけたところで三人目にマントの布地を捉えられ、あっという間に身動きを封じられてしまう。
「手間かけさせやがってこのアマ……そんなに可愛がって欲しいなら存分に可愛がってやるぜぇ!」
「いやあぁっ!!」
すっ、とマントの下へと入れられた手に激しい嫌悪感を覚え、リリスは大きな悲鳴を上げた。
肌に直接触る生暖かい手と耳にかかる荒い息は生理的に激しい嫌悪感を抱かせる。
――こいつに良いようにされるくらいなら。
歯を食いしばって嫌悪感を押さえ込み、頭だけ回転させて振り返る。
そうして自分を後ろから羽交い絞めにしている男の二の腕あたりに噛み付いた。
「いってぇ! お前、なにしやがるっ!! おい、こいつを押さえろ!」
思わぬところからの攻撃はさすがに痛かったのか、男は一瞬ひるんで仲間の男たちに声をかける。
その隙にするりと腕の中から抜け出すことに成功し、リリスは男たちの囲む輪を破って走り出した。
けれどさすがに今度はすぐ男たちもリリスを追いかけてくる。
足の速さなら断然男たちのほうが早い。
もみ合っていたうちにフードが外れてしまった所為か、いくばくもいかないうちに後ろになびく長い髪をつかまれ引き戻された。
髪の毛が根こそぎ引っこ抜かれてしまいそうな痛みにリリスが目をしかめると、男は下品に顔を歪めて笑い、腕を勢いよく前へ突き出す。
「ぐぅ……っ!」
「少し静かにしておいてくれよ。ねぐらへ帰ってからたっぷり可愛がってやるからなぁ」
手加減なしにみぞおちへ一発入れられ、リリスの視界が暗転する。
必死で意識を保とうとするもどんどん暗くなっていく視界に抗うことはできず、ゆっくりと男の腕へと崩れ折れる。
ああだめ、今意識を失ってしまったら――そう思っても、止められない。
視界が黒に埋め尽くされていく。
そうしてリリスは完全に意識を手放したのだった。