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三章  天青と藍晶は闇夜に輝く 【1】



東西南北からヘパティカへと伸びる四つの街道――その中の一つ、南の都市ロータスから伸びるレシティア街道は、 今の時期多くの旅人たちが昼夜行き交っている。
その中には流浪の「魔法使い」や、まだ「魔法使い」になれていない者たちも多くいた。
だがこの街道は一日で歩ききることができる距離ではないのにあまり宿屋がない。 それはこのあたりが湿地帯であることにあった。
道をそれて迂闊に足を踏み出せば底なし沼に引きずり込まれてしまう恐れがあるため、 旅人たちは昼夜を通して歩き続けることが多かったためだ。
そんな中にいたのはロータスの近くの小さな村から出てきた少年だった。
彼は、「魔法使い」になることを志してヘパティカへと向かってきた。 三日三晩歩き続けてようやく遠くのほうに見えてきたヘパティカに安堵のため息をつき、後もう少しがんばろうと重い足を引きずる。 このまま歩いていけば、夜中にはヘパティカにつける算段だった。

異変が起こったのは、夜空の端に煌々と輝いていた月が雲に隠れ、ほとんどあたりが真っ暗になったときのこと。
少年は不意に、何かの声を聞いて立ち止まった。

「……クレ……」
「え?」

低い声で呻くようにささやく声に、少年は身震いした。
先ほどまでこのあたりには自分以外の人間は見当たらなかった。 いつの間に誰がこんなに間近まで来ていたのだろうか。

「そこにいるのは、誰?」

思い切って問いかけてみると、道の脇から現れた人影がかすかに見えた。
よく見ようと目を凝らすと、ちょうど雲間から顔を出した月が人影を照らす。 そこには闇夜に光る目が二つあった。
妖しく光る青い目に、少年は思わずしばしの間見とれる。
けれどそれが少年にとっての命取りとなった。

「魔力……欲シイ……力ヨコセ……!」
「うわあぁぁっっ」



喉を掻き切られて事切れた少年が最後に見たものは、月に照らされて光を放つ銀糸のような髪と、美しい青の瞳だった。






  


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