まぶしい朝の光に起こされて目覚めると、なんだか目が開けにくい。
おかしいなと思いながら目をこすると、妙に熱を持っていて腫れぼったかった。
その上頭も少し痛い。
どうしてこんなに頭がぼうっとしているんだろう。
まるで散々泣くだけ泣いて、そのまま寝てしまった次の日みたい。
そこまで考えて、リリスは昨晩の醜態をすべて思い出した。
「わたし、散々泣いて……っ!」
寂しい、助けてと泣きじゃくって、あの人に縋った。
昨日あったばかりの、まだ名前も知らない人に。
自分のしたことを思い出し、頬に熱が集まっていくのがわかる。
なんてことをしたのだろう。
あんな、あんな恥ずかしいことを……!
思わず頭をかきむしりたくなってくるほどの羞恥心に見舞われながら、辺りを勢いよく見回す。
あの人はどこにいるのだろう?
今あったら、絶対に目をあわせられない――……。
そう思って必死で探したけれど、それらしき人影は小屋の中には見あたらない。
「いないみたいね。どこに行ったのかしら? まさか、昨日のことは夢だったとか……?」
少し安堵感を感じながらそう考えてみて、すぐにその想像はありえないと打ち消す。
そんなに都合のいいことがあるわけない。
リリスがこの小屋に運ばれてきたのも、大泣きしたのも事実なのだから。
「起きたのか」
「きゃあぁっ!!」
突然いないと思っていた男の声が後ろからして、リリスは飛び上がる。
思わず後ろを振り向くといつの間にか小屋のドアが開いていた。
どうやら男はそこから入ってきたらしい。
「な、なな、なんでいるのよっ!」
振り向いた瞬間にばっちり目があってしまい、動揺したリリスは上ずった声でそう叫ぶ。
叫んでしまってから、しまったと思った。
これでは男がこの小屋へ入ってきたことをとがめているように聞こえてしまう。
けれどいってしまったことは取り消せない。
次にいう言葉が見つからなくて、あの、とかその、とかもごもごいっていると、男は少し困ったような顔をしながらも昨日とまったく変わらぬ調子で答えた。
「近くに川があったからそこまでいって水を汲んで戻ってきただけなんだが、戻ってきてはまずいことでもあったのか?」
そう聞かれて逆にリリスが返答に困った。
確かに戻ってきてまずかったわけではない、わけではないのだが自分にとってはまずかった。
けれどそんなことはいえないリリスはしどろもどろになりながら答える。
「そんなことは、ない、とおもう。……ええと、水、ありがとう」
「ああ。昨日のことで疲れただろうし、少しこの小屋でゆっくり休んでから出発するといい」
昨日のこと、と聞いてとたんリリスの体が固まる。
またもや思い出された自らの醜態に、顔が赤くなるのが自分でもわかった。
「どうした? どこか具合でも悪いのか?」
「そっ、そういうわけじゃないけど……っ、ええと、その……」
「そうか。その水は自由に使うといい。あれだけ泣いたのだからのども乾いているだろうし、目も赤いからそれで冷やせばましになるだろう」
「――……っ!」
男のストレートな言葉に、リリスはさらに恥ずかしくなってうつむいた。
そんな様子にも気付かず、男は言うだけ言うとそばから離れていく。
固まったまま動けないでいるリリスはしばらくその場に突っ立っていた。
と、うつむいていたリリスの目にひやりとしたものが当てられる。
不意打ちの冷たさとその突然さにリリスが思わず顔を上げると、目の上に水に浸した小さな布が乗せられていた。
「これ……」
「少しそのままでそこのイスにでも座っておくといい。そうすればすぐに赤みもひく」
どうすればいいか分からずに突っ立ったままでいると、男はぽんぽんとリリスの頭を軽くたたいてそう言い、離れていった。
リリスは言われたとおりテーブルの近くに合ったイスに座り込む。
冷たい布はとても気持ちがよく、同時に気分も落ち着かせた。
そうしているうちにリリスは昨日泣いたことを騒ぐ自分がなんだか馬鹿らしく思えてきた。
自分は恥ずかしいだの何だの言って男の言動をいちいち気にしていても、男のほうは昨日リリスが泣いたことをこれっぽっちも気にしている様子がない。
その上リリスの泣いた理由を追求するのではなく、泣いた後のリリスを心配するなんて変わっている人だ、そう思った。